10 April, 2015

不毛の荒野で


 「過去と他人は変えられない。自分と未来は変えられる。」

 この言葉が流行っているみたいだ。タレントさんが喋ったり、座右の銘にする人がいたり、組織の標語になったり、カウンセラーが説いて本を出したり。正確な出典はわからないが、カナダの精神科医/心理学者エリック・バーン Eric Berne (1910-1970) の提唱だそうで、対人関係に疲れた人たちの、いかにも心のツボにハマりそうな決めゼリフだ。
 うーん確かに。今年の私はこれで行こうか・・・・・・と、うっかり私も納得しかけた。
 だが翌日には目が覚めた。そんなのダメだって!他人のありように対する寛容と、「前向き」で「クール」な自分を装ってはいるが、それは、自分が楽になる方法でしかないんだもの。

 争いごとを避けて、「ありのままのあなたを受け容れるわ」とか言いながら傍観者になって、人とのマジメな交わりから逃げて、それを軽口でかわして、ひたすら自分を守るために自分が変わる素振りをしてみせて、そんな自分に「いいね!」が入ると安心して、優越感の中でぬくぬくと暮らす・・・。そんなゲームが面白いの?
 自分が大切だと思うなら、あなたはもっと大切だ、と思ってはいけないの?
 過去とも他人とも、向き合わなければならない時がある。話してみなければならない時がある。向き合って話そうとしなければ、きっと陰口のたたき合いになる。そんなの卑怯じゃないか!

 ぶつかり合って、追いすがって、不毛の荒野で傷つき倒れるまでたたかってもいい。そのあげく、ひとりぼっちで放り出されてもいい。
 死んでもいい。血も流さず、叫びもせずに、あなたが冷たく乾いた土くれのように死ぬのを傍観するよりは。

 「友のために自分の命を投げ出すこと、これ以上に大きな愛はない。」 (ヨハネによる福音書 15:13)


No one has greater love than this, to lay down one's life for one's friends. (John 15:13)


Chang-La pass again. Ladakh, 10 Aug 2014. EM697
__Megumi at Chang-La pass (5360 meter altitude), Ladakh India, 10 August 2014.
__Taken by E. Manzaki (photo copyright © 2014 Eiichi Manzaki).
__Using Leica M with Elmarit-M 28mm/F2.8 single focal lens.

 2014年8月に訪れたラダック、標高5360メートルのチャン・ラ峠にて。夫がライカMで撮ってくれた。私はこの写真を最初見た時、露出不足で失敗じゃないかと思った。だが、乾燥して砕け、白けた地面と山肌、すぐ背後に氷河が迫っていることの不思議さ、成層圏に近い蒼穹の暗さと、足元の影の濃さは、この露出でなければ写せなかったのだと、8か月も経った今になってわかった。