60歳過ぎてもライブハウス通いが止まらない、かっこいいインディー・ミュージシャンのライブ写真撮影に精出すおばさんロック・フォトグラファー。機材は1970~80年代のオールドレンズ、コンタックス/カール・ツァイス。時にはライカ。最近ニコンも使うけど、AFもAEも最新機能は信用せず、マニュアルモード一本やり。老眼かすみ目つらくても、今夜も腕っぷしでがんばるよ!
30 March, 2015
ファズの魔法使い, 29 Mar 2015 - グレッグ・Fの物語
ファズの魔法使い (featuring 春日善光) live at Outbreak, Yotsuya Tokyo, 29 March 2015.
Using Carl Zeiss/Contax Planar 135mm/F2 single focal lens, Planar 50mm/F1.4 single focal lens with Sony Alpha ILCE-7 35mm full-frame camera.
All photo copyright © 2015 Megumi Manzaki.
11 photos taken by Megumi in this session available.
https://www.flickr.com/photos/megumi_manzaki/sets/72157651578112506/
写真のバンドと直接の関係はない話なのだが・・・・・・。
オリヴァー・サックスという脳神経科医が書いた医学エッセイ『火星の人類学者: 脳神経科医と7人の奇妙な患者』(ハヤカワ・ノンフィクション文庫、オリジナルは Oliver Sacks, An Antholopologist on Mars, 1995)の中で、「色盲の画家」のエピソードの次に登場するのが、「最後のヒッピー」、脳腫瘍から健忘症になり、1960年代の世界に生きるグレッグ・Fというアメリカ人青年のエピソードだ。
療養所で車椅子生活を送るグレッグは、人格も感情もあり会話もできるが、彼の話の中ではジャニス・ジョプリンもジミ・ヘンドリックスもまだ死んでいない。つまり1969年ないし70年で彼の時間は止まってしまったのだ。グレイトフル・デッドの熱狂的ファン(デッドヘッド)で、ニューヨークのセントラルパークとフィルモア・イーストのライブに行ったことを熱く語る。デッドの60年代の曲は全部正確に歌え、ギターだって弾くことができる。だが1970年より後の出来事は5分前のことも憶えていないし、彼は視力を失っていたのだが、自分が目が見えないということすら理解していない。
そんなグレッグに寄り添うように1977年から継続的に診察してきた脳神経科医オリヴァーは、1991年の夏、マディソン・スクエア・ガーデンでグレイトフル・デッドのライブがあることを知り、その刺激がグレッグの症状に変化をもたらすかもしれないと、苦労してチケットを取り連れて行く。
「・・・(ニューヨークに到着したグレッグが言うことは) 病理的な時代錯誤でしかないが、マディソン・スクエア・ガーデンの60年代さながらの群衆のなかにいると、自然で正常なことのように感じられた。」「会場に入ると、車椅子のグレッグのためにサウンドボードのそばに特別席がしつらえてあった。グレッグは時間とともにますます興奮し、群衆の叫び声を聞いてわくわくしていた。」
・・・地下鉄の車内でここまで読み、私自身もわくわくしながら、エピソードの結末まであと2~3ページを残して、四ツ谷駅で降りてライブハウスに向かった。4バンドのパワフルなステージを経てオーラスの「ファズの魔法使い」の登場前、転換時間があったので、フロアは暗かった(しかもミラーボール照明だ)けど、あとちょっとの続きを読んだ。・・・ステージでは春日さんのギターが大音響で鳴り始めているというのに、その結末のせつなさに私は号泣しそうになってしまった。せつない結末、といってもグレッグ・Fが死んだわけではない。ほんの数年私たちより年上のはずなので、どこかの療養所でまだ存命かもしれない・・・。
コンサートが終わってマディソン・スクエア・ガーデンを出る時、「今日のことは決して忘れないよ。人生で最高の日だった」とグレッグは言う。コンサートの記憶がグレッグの頭から消えないように、帰りの車内でデッドのCDをかけ、オリヴァーはグレッグに話しかけ続けた。「グレッグは帰る道すがら熱心に歌っていたし、療養所で別れるときも、まだ興奮にうっとりしていた。」
「翌朝早く行ってみると、グレッグは療養所の食堂でぽつんとひとり、壁のほうを向いていた。わたしは、グレイトフル・デッドをどう思うか、と尋ねた。『すごいグループだよ。・・・セントラルパークに聞きに行ったことがある。フィルモア・イーストにも』 『・・・そのあとはどう?マディソン・スクエア・ガーデンに聞きに行ったばかりじゃないかい?』
『いや』と彼は答えた。『マディソン・スクエア・ガーデンには行ったことがないよ』」